蛍なんて

 

かつては少し田舎へ行けば、小川や田んぼに普通にいた昆虫のように思う。私の実家がある田舎町も、町を横断する川に夏なると子供たちが蛍狩りをするほどに蛍がいた。実家はその川から少し離れた駅前にあったので、高校生になって生活の中心が高校のある町に移ると、いつしか田舎町の川にかかる橋を渡ることもほとんどなくなり、蛍の存在等すっかり頭から消えていた。

 

大学2年の時、高校の1年の後輩と東京駅から東名高速道路を走るハイウェイバスに乗って帰省した。ハイウェイバスのバス停が田舎町にあるのだ。町の中心部から外れた丘陵部分を高速道路は走っていて、平坦地の部分には水田が広がっていることが多い。

 

夕方に東京駅を出発し4時間半ほどで田舎町のバス停に着くのだが、バス停から私の実家までの20分ほどの大部分は田んぼの中を歩くことになる。バス停から高速道路の外へ出ると、田んぼの上を蛍が群舞していた。先ほどまで、私の「実家は駅前ロータリーのまん前にあってさ、両隣は喫茶店だし....」というほら話から、私の実家が田舎町にあるにしてもその町のもっとも都会的部分にあるものだと信じ込んでいた後輩も驚いたが、私自身もおそらく小学生の時以来見ることになった蛍の群舞する様子に、驚いた。

 

その頃には、すでに田舎町でも川岸のコンクリート化、水田への農薬散布などで昆虫等を見かけること自体が減ってきていたから、あんな大量の蛍を見られることがあるなんて、文字通り夢にも思っていなかったのだ。

 

 

今は

 

もちろん蛍なんて見られない。ザリガニ・フナなどと同様に。

 

しかし、山(と言ってもせいぜい標高200, 300m)を一つ越えた隣町は「蛍の里」と呼ばれている。保護活動もされているが、過疎化で人が減った→人の環境への影響が減った、というのが一番大きいだろう。10年ちょっと前に小学校も閉校されている。

 

その蛍の里に小学6年生の夏休みの最後に日曜日、父親とサイクリングに出かけた。半日以上自転車に乗っていたのだが、その日の夜からだったろうか、ひどい頭痛に襲われた。翌日も。今で言う熱中症である。当時は日射病と言われていた。熱中症は後にも先にもあの1回だけだ。

山田センセ